たくなくの雑記帳

思ったことを書き留める雑記帳

つい気になってしまう健保連の予算と決算

だからどうって話なんですが、どうしても気になってしまったので調べて書いてこの気持を供養します。

健保連の予算発表

今朝こんなニュースを目にしました。

健康保険組合の集団である健保連が取りまとめた内容によれば、2021年の健保予算は「8割が赤字」になっているというインパクトある内容です。

日本は国民皆保険制度によって医療に手厚い国ではありますが、医療費がかさみやすい高齢者人口が増えることで、この制度体系が崩れるのではないかという話をよく聞きます。

それは端的に言えば、こんな風に保険料収入を保険給付が上回るという事態ですので、このニュースが注目を集めるのもわかります。

しかし、しかし...このニュースを見て、とある思いが湧き上がったという話です。

 

中身を見てみよう

健保連発表そのものから、もう少し中身を見てみましょう。

いくつかありますが、令和3年度 健康保険組合 予算編成状況について -予算早期集計結果の概要-(PDF)のスライドが一番見やすいです。

中でも、一番内容を端的に表しているのがこのページです。

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引用:令和3年度 健康保険組合 予算編成状況について -予算早期集計結果の概要-(PDF)(p.4)

見て分かる通り、リーマンショック付近(平成20-21年)で大きく赤字に陥った結果、多くの保険組合が保険料率を引き上げ、なんとか黒字転換したところ、またこのところ赤字に転落している、とそういう内容が見えます。

今年は昨年よりさらに赤字幅が拡大していますが、その主要因としては収入の減少が挙げられるようです。コロナで収入が減り、それに連動して保険料収入も減った、という関係です。

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引用: 令和3年度 健康保険組合 予算編成状況について -予算早期集計結果の概要-(PDF)(p.1)

さてこう見ると、何も違和感なく聞いていられる内容、そんな気もします。

しかし、しかし気になる...

じゃあ何が気になるんだというと「予算と決算のブレ」と「潤沢な積立金」のことです。

予算と決算のブレ

保険給付という不確実な事項を予算において予測する性質上、ブレることは仕方ないのですが、健保連においてはこのブレ幅が結構ダイナミックです。

一番最近発表された決算は令和元年(2019年)のものですが、その予算値を見比べるとずいぶん違うように見えてきます。

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引用:2019年度_健康保険組合予算早期集計結果と「2022年危機」に向けた見通し等について (PDF)(p.2)

こちらが2019年4月22日に発表された2019年予算資料で、-986億円の赤字予算であることが述べられています。左に並んでいるのが前年度予算で、-1357億円です。

それに対して、2020年11月5日に発表された2019年決算資料を見てみると...

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引用:【資料4-2】 令和元年度健康保険組合の決算見込について(概要報告)(PDF)(p.3)

というように、一見見るところを間違えたかのような、全然違う印象の内容が書かれています。

これぞ健保連マジック。

 

こうしてブレること自体は、

  • 不確実性の大きい保健事業の予算である
  • 決算値と予算値の性質が大きく異なる
  • 当年4月の予算公表、翌年11月の決算公表

あたりのことから、こうなるのはやむを得ないというのは分かるんですけどね...ただここまで違うと、なんのために予算を公表しているのか、そしてその予算値に対してあーだこーだ言うことに何の意味があるのか...とつい思ってしまうわけです。

潤沢な積立金

とはいえ、リーマンショックの時期は決算値でも-5000億の赤字を計上していたわけなので、やばいときはマジでやばいことになります。

しかし、複数年に渡り巨額の赤字を計上しても、健保連としては存続できるのは各健保内で積み立てている貯金の力によります。マネー・イズ・ゴッドです。

どれくらいの規模の貯金があるかは、健保連決算資料の貸借対照表に記載があります。

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引用:平成28年度健保組合決算見込の概要(PDF)(p.26)

これは平成28年決算で少し古いですが、貸方の法定準備金別途積立金がいわゆる貯金にあたります。

法定準備金は保健事業の安定性を確保する観点で、保険者の数に応じて保有が義務付けられるお金で、それ以上のものが別途積立金として積み上がるイメージです。

単位が億円なので、法定準備金が1.8兆円別途積立金が2.1兆円あるということですね。

もちろん、予算規模8兆円の会計において2兆円の貯金がどれほどの安心を与えてくれるかというのはありますが、決して少なくはない規模の貯金があるというのは確かでしょう。

 

報道の違和感

GPIFに対する「巨額損失!」みたいな報道もそうですが、今回の「赤字組合が8割!」みたいな報道はなんだかなーと思ったりします。

基本的なストーリーラインとして、日本の健康保険制度が危機にあるのは理解しますし、収入減から昨年より厳しい予算編成になるということもわかるので、基本的なトーンに反対するわけではありません。

とはいえ、決算よりかなり厳しく出さざるを得ない健康保険事業の予算であること、そして単年赤字で崩れないための積立金を蓄えていることも踏まえて初めて、公平な報道だと思うのでなんだかなー、というところです。

 

ただ、現在の報道で「健康保険の危機」が指摘されているわけで、その主旨自体にはそこまで違和感はないため、冒頭に書いた通り「だからどうって話でもない」という感覚になってしまいます😇

でも、でも...事実は事実として公平に取り扱ってほしいし、そういった事実を踏まえて見解を添えてほしい...そういう気持ちがこみ上げてくる報道でした。

補足1:これまでの予算と決算差異

健保連発表の予算値と決算値が大きく異なるという話をしましたが、2008年以降のデータを振り返るとこんな感じです。

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健保連予算と決算の推移

灰色の差異が常に上側(プラス)にいることから分かるように、この期間では常に予算値よりも決算値が黒字側に動いています。

さらに言えば、リーマンショック期の赤字から脱した後、2014年から確定しているだけで6年連続で黒字決算ですが、実はその間もずっと予算としては赤字予算を出し続けています。

そう、健保連マジックです。

補足2:積立金の推移

予算/決算値と同様に、積立金の推移も見てみましょう。

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積立金の推移と料率引上組合数の推移

こちらは灰色の総資産の増減とは逆に、黄色の料率引上組合数が増減していることがわかります。リーマンショックから少し遅れて2012年に引上げのピークとなりましたが、2014年に黒字化して以降、かなり低く推移していますね。

灰色の総資産は減少から増加に転じたことがわかりますが、その変動の中身はほぼオレンジの別途積立金に依っていることがわかります。
もちろん、青の法定準備金は「手を付けないことが望ましいお金」ですので当たり前ですが。

この期間中で言えば、2008年に別途積立金が約2.5兆あったところ、2012年には約1.4兆と毎年2500億のペースで減らしていきました。
このことを思うと2兆あるから安心というものではなく、慌てて多くの健康保険組合が保険料率に動いたということも理解できます。

しかし、開示されなくなった貸借対照表

ところで、上のデータが2016年を最後に切れています。
それはデータを集めるのがだるくなったから...というわけではなく、2017年(平成28年)以降の貸借対照表が公表されなくなったからです。

この2つ、ほぼ同じフォーマットに見えますが、別紙として添えられていた貸借対照表が平成29年のものには入っておらず、これ以降貸借対照表のない決算公表が続いています。

これは勝手な邪推ですが、基本路線としては財政不安を強調し、保険料率引上げの機運を高めたいがために、豊富に積み上がっている積立金の存在を見せたくないとかそういう気がしてしまいます。

このあたりについて世間一般の課題感はないのかとググっていたら、こんな文書を発見しました。

健保連が、1,674組合分をまとめた平成14年度末の決算見込みを公表した。
強調していることは、「4,000億円強の過去最悪の赤字」「全組合の8割以上が赤字」という点である。貸借対照表(バランスシート)を開示しない、経常収支値を決算値と強弁する等、旧態依然たる状況も変わらない。

「平成14年」のところを除けば、同じような話に見えますね。

面白い(?)のが、「3.新聞はどう書いたか」のところで、

新聞各社は健保連の発表を受け、7月11日付の朝刊で一斉に報じた。その内容と去年の報道内容を整理したのが表④である。
これから以下のことがわかる。
○各紙とも巨額赤字と赤字組合数の割合を強調した横並びの論調である。
○総収支差が黒字であることや総収支と経常収支の違い等について報じたところは、どこもない。
貸借対照表が公開されていない問題を追求しているところも、どこもない。
○今年と去年を比較してみると、数字を変えただけで、内容的にほぼ同一である。

これは平成15年、つまり今から18年ほど前の2003年のことですが 、基本的に今の何も変わっていないということですね。

2003年はまだリーマンショックが発生する前ではありますが、リーマンショックがあろうが、コロナショックがあろうが、基本的にスタンスが変わっていないというのは、もう逆に感心できるところなのかもしれません。

 

次の決算、次の次の決算はどうなるか

こうなってくるともはやそういう伝統芸能だと思って向き合ったほうがいいのかもしれません。

今のところ最新の決算が2019年なので、2020年決算がどうなっているかや、今回発表された2021年予算に対して決算がどうなってくるかというのは少し楽しみ(?)な気がしてきます。

さらに、次の予算、2022年予算はこれまで健保連が危機を訴えてきた「2022年危機」の年にあたります。

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引用:今、必要な医療保険の重点施策 -2022年危機に向けた健保連の提案- (PDF)(p.1)

要するに「段階の世代が75歳に達し、医療費の急増が危惧される」というのが2022年危機のことです。

コロナによって手洗いうがいの励行など、日本の公衆衛生レベルが格段に上がったと言われますが、それによって逆に医療費が抑えられる...なんてことはないんでしょうかね。
このあたりは2020年決算をよく読んでみたいところです。

個人的には "保健事業" をもっとやってほしい

もっと言えば、2022年問題の課題感はよくわかるんですが、個人的に「病気を治す保険事業」よりも「病気を防ぐ保健事業」をやってほしいですね。

保険料をたくさん払っているからこそ、「たまには病気にならないと損」「病気になっても健康保険があるし大丈夫」みたいになる人がいるんじゃないかと思っています。

もちろん、進んで不健康になる人はいないと思いますが、お金の面で「健康を求めるモチベーションを作ってやる」ことも保健事業としてはアリだと思うんですが、どうなんでしょうね。病気にならなかったら来年の保険料がちょっと安くなるとか。

まぁそんな簡単でないのは承知ですが、情報開示はしっかりしてほしいですねぇ~。

 

っていう嘆きをもって、今朝のニュースに対する思いを供養します。ナムアミダブツ。

 

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