久しぶりに小説読んで感動したのでブログにしたためるのだ。
百年法(山田宗樹)
こちらがその小説。山田宗樹の百年法。なんと上下巻ともにKindle Unlimited対象。
これは非常にコンセプチュアルな小説だと思っていて、コンセプトはただひとつ、「20歳になったら不老不死化できる世界」の話です。
コンセプチュアルかつ現実味ある展開ってところでは、東野圭吾的だなって印象でした。(←東野圭吾好きの印象)
もう少し補足すると、
- 舞台は日本
- 第二次世界大戦の終戦後、世界で不老不死化の技術が拡がる
- 社会的な問題を解決するため、「不老不死化から100年で死ななければならない」という生存制限法、通称:百年法が導入されている
- 物語は日本において百年法を推進する立場にある政治家/官僚サイド、それを受ける世間としての一般人サイドの両面で進む
ような感じです。言い過ぎるとネタバレなのでこのへんで。
「不老不死になれる世界」って?
というわけで、この小説の根幹は「不老不死になれる世界」ってところにあるわけですが、この「なれる」ってのがまたくせ者で、そこに個人の生き様が投影されるのが非常に面白いというか、考えされられる部分でした。
この世界で言うところの不老不死化は、老化を抑えるウイルスに感染させるもので、それこそワクチンを打つくらい気軽な医療措置と描かれています。
そして、20歳を超えたら誰でもそれが受けられるので、ほとんどの人は20歳到達記念で不老不死化し、ナイルミドルを目指して30代で受ける人がいたりしながらも、ほとんどが不老不死化するという世界観です。
もちろん、この不老不死化のセットが百年法なので「私は100年後に自ら死にます」みたいな誓約書にサインした上で受けるわけですが、まぁ社会的な常識なのでそのことを20歳やそこらで真に考え抜いている人は少ない、っていうものです。
(それに疑問を抱いた人の描写ももちろんあります)
確かに、実際にそういうものがあったとしたら、自分も20歳かそれくらいで受けるだろうなーと思いつつ、100年先に向かってどういう心境の変化があるのかというのはなかなか考えさせられました。
今この不老不死化のアイデアを聞くと、「へー、いいじゃん」みたいな安直な感想を持ってしまいますが、でもこれって
- 生物的な限界に基づいて避けようがなく死ぬ
- 自身の活動性も老化とともに低下し、それが暗に死への準備となる
っていう前提で育ったで頭の印象なので、この百年法の世界で言うような
- 社会的な都合によって死ぬ
- 自身の活動性に変化はなく、何も思わなければ変わらない日々が100年続き得る
ものとは全然違う中でのものなんですよね。
なので、自分がこの世界で20年生きてきて、その上でどういう印象を持つのかは安易に決めかねるなーという印象でした。
小説家ってすごい
そういった、深みのある世界観で自分がどう思うかみたいなところも確かに面白い体験だったんですが、読めば読むほど思ったのは「小説家ってすごいな」ってことでした。
面白いなと思って小説を読み進めるものの、この世界観の根底にあるのはどこまでいっても冒頭に挙げたあの不老不死化と百年法のコンセプトだけなんですよね。
それ以外はほとんど現実の世界や日本の設定を踏襲していて、コンセプトから波及する部分を自然かつリアルに描写していて、その緻密さにプロのすごさを感じたところです。
加えて、あとは個々のキャラクターの魅力がすごいですね。
さっき少し「自分がこの世界に生きていたら」みたいなことを書きましたけど、自分だけでもイメージが定まらず迷うのに、自分と違うパーソナリティでも生き生きと、堂に入った雰囲気で動かせるのはほんとにすごいと思いました。
生きがいってなんだろう
あとは、そういったエンターテインメントとしての面白さとは別に、生きがいってなんだろうっていう思いがずっとありました。
これは単に「不老不死ってどんな気持ちか」って話なんですが、遠い未来、100年先で死ぬみたいなことが一応知識としてあったとしても、死の恐怖少なく生きていく中で、自分の興味やバイタリティがどこに向くのか、っていうのはとても気になったポイントです。
僕は現時点で、何か強烈な使命感とか、生きがいみたいなものをこの身に感じているわけではなく、なんとなく訪れる日々を楽しく受け入れていますが、それが未来永劫、それに近い形で続くとすればそれはそれで思うところはあるだろうなという印象です。
そして、何かやろうとするときに「時間制約」ってかなり大事な要素だと思うので、究極的な時間制約である寿命とか、身体の衰えとか、そういった外部刺激を受けるのは生きがいにとってとても大事な要素なんだろうなと思いました。
今はまだ子どももいないのであれですが、子どもが生まれるってのも大きな外部刺激だと思うので、そういった刺激を身に受けながら、何か自分の胸に期すものは見つけたいとぼんやり考えたところです。
久しぶりに読んだけど小説いいな
冒頭さらっと「久しぶりに小説読んだ」と言いましたが、たぶん5年ぶりのはずです。
というのも、5年前は会社への通勤に1時間以上かかっていたのが大きくて、毎日2時間近く読書の時間が習慣的に取れてたこともあって、小説が生活に馴染んでいました。
そこから引っ越しして、通勤経路が変わり、通勤時間は短くなったけど乗り換えが増えるなどして、小説が読みづらくなってなんとなく生活から離れていったのがここ5年でした。
今回は、たまたま髪を切ったときの雑談で教えてもらったからですが、こうやって読んでみると久しぶりに小説っていいなーって気持ちがあります。
確かに文字数は圧倒的で、敬遠するところはあるものの、その分エンターテインメントとしてのクオリティも見合うものがあり、他にはない深みがあるものだなと改めて思いました。
最近はもっぱら通勤でTwitterや誰かのブログを見てしまうことが多いですが、こうした小説も一定程度生活に含めていきたい気持ちで記録おわり。
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